2013-07-01 11:52:43
保護者の皆さまへ 子宮頸がん予防ワクチンの接種についての考え方
まず、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種後に起こった小児の慢性疼痛などにお悩みのご本人及びご家族に深くお見舞い申し上げます。
さて、2013年6月14日に厚生労働省は子宮頸がんなどを予防するHPVワクチンに関して、定期接種としての位置づけはそのままに接種の“積極的な”呼びかけを一時中止すると発表をしました。この発表を受けて、接種対象の女児の保護者の方はどのように判断、行動すれば良いのでしょうか。
●接種の積極的な呼びかけを中止した目的
HPVワクチンは、子宮頸がんの50%~70%の原因となる2種類のHPVに予防効果があります。世界保健機関(WHO)でも接種を推奨し、世界各国で累計約1億8千万回接種されています。日本でも、今年の4月から定期接種となりました。
2010年に公費助成がはじまり、多くの女児がワクチン接種をうけたところ接種後に失神や慢性疼痛(疼痛が広範囲にわたる症例)が報告されました。失神は注射に対する恐怖、興奮などをきっかけとしておこるため、起こしにくくする工夫や倒れて怪我をしないような対策がとられています。慢性疼痛は、たいへんまれにおこっています。原因は不明ですが、骨折や捻挫などのけが、小さな痛み、時にはワクチン接種がきっかけとなります。
今回、日本での痛みと接種との因果関係や、痛みがおこる頻度、それに海外での詳しいデータについて実態調査が必要と考えた結果、厚生労働省は約半年間をめどに「接種の積極的な勧奨」の一時中止という決定をしました。
●HPVワクチンの評価-「リスク対リスク」で判断
ワクチンをはじめとした医薬品を評価する際には必要性と有効性(ベネフィット)と安全性(リスク)を比較します。例えば、頭痛薬の評価は、鎮痛作用(ベネフィット)に対する期待が胃腸障害(リスク)が起こる危険性を上回るかどうかを判断します。
ワクチンの場合は、「かかるかどうか分からないVPD(ワクチンで防げる病気)の予防」というベネフィットの部分が目に見えにくい特徴があります。反面、接種後のリスクは症状としてわかりやすいために、ベネフィットとリスクを比較しても正しい評価がしづらいようです。
そこで、ワクチンを接種するかどうかは「接種せずにVPDにかかった場合」と「接種後に副反応が起きた場合」というリスク対リスクで比較することを提案します。
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子宮頸がん |
慢性疼痛(CRPSなど)
CRPSとは、慢性疼痛の一つで複合性局所疼痛症候群Complex regional pain syndromeのこと
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原因・
きっかけ |
性行為をおこなう女性の50~80%がHPVに感染し、うち10%未満が持続感染し、最終的に一部が子宮頸がんになる
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原因は不明だが、骨折・捻挫・稀には注射の針刺しなどの外傷をきっかけとして生じる
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患者数
頻度
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年間9,000人(2007年)
20代~30代の若年層に増加
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成人のCRPSは5千人に1人
小児のCRPSは、英国のデータでHPV接種100万回に1人。日本では調査中
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症状 |
進行すると生理でない時や性交での出血、足腰の痛み
血尿・血便などがみられるが、初期には症状がないことが多い
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広範囲にわたって、通常では説明できない過敏な痛みが持続する
左右の腕の太さや温度の違い、むくみや発汗がみられることもある
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発見
診断
治療
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・前がん状態:検診で早期発見の場合検査 のため円錐切除術(入院1週間)を受ける。その後も定期検診で経過観察が必要
・初期がん:円錐切除術(入院1週間)でほぼ完治する。その後も定期検診で経過観察が必要
・進行がん:子宮、卵巣などの広範囲の摘出手術(入院2-4週間)でQOLも大幅に低下する。がん転移の可能性もある
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・子どものCRPSは医療者にもあまり知られていないので、診断が難しい
・治療は症例に応じて運動療法や薬物療法が行われる |
予後 |
年間2,700人(2011年)が死亡している |
時間がかかる場合もあるが、症状は治る |
予防 |
HPVワクチン接種で高リスク型HPVの感染を予防(50-70%) |
ない |
子宮頸がんに関しては主に平成25年度第2回厚生科学審議会予防接種・ワクチン副反応検討部会資料をもとに作成
●WHOのコメント
WHO(世界保健機関)の安全性会議の最新の報告によりますと、HPVワクチンの累計約1億8千万回接種の分析から、重大な副作用(ギラン・バレー症候群など)はなく、ワクチンの安全性は極めて高いとあります。ただし、接種後の失神には気をつけることと、接種後のCRPSに関しては、世界でもありますが、日本でやや多く報告されていることです。そして、日本に対しては、「早急にCRPSあるいは類似の病気が疑われる患者さんをよく調べて、良い対策を講じるように」とのコメントがあります。
●「積極的にはお勧めしません」とは?
保護者の方がいろいろな点を考慮してHPVワクチンを接種しに行ったのに、医師から「お勧めしません」と言われたら…。心配になって、接種を控えようかなと思うのは当然です。医療者から「受けてはいけないワクチン」と説明を受けることもあります。でもこの「積極的にはお勧めしません」という表現は、実はあまり正確とは言えないのです。
今回の厚生労働省の決定は、正確に言うと「予防接種を受けるよう努力する義務(「努力義務」と呼びます)を国民に課さないようにする」ということです。少し難しいですね。でも、「国が努力義務を課していない」予防接種はHPVワクチンだけではありません。
インフルエンザ、おたふくかぜ、みずぼうそうなどの任意接種ワクチンも同じです。小児科などで接種を勧められると思いますが、これらのワクチンは定期接種ではなく、「国が努力義務を課していない」、すなわち「(国が)積極的にはお勧めしていない」ワクチンです。でも、それらの病気の重大さを考えて、小児科医などからは「受けてくださいね」と勧められますね。
国がHPVワクチンについて言っていることは、極端な解釈をすれば「今は接種を受けるよう努力する義務は止めています。しっかりとご家族で判断されて、受けたくなければ、受けなくても構いません。それであなたのお子さんが子宮頸がんにかかりやすくなっても、自己責任ですから納得してくださいね。国に責任はありませんから。」さらには「受けたい人は今まで通り受けてください。原則無料ですし、万が一、予防接種によって健康被害が起こっても、手厚い救済措置もそのままにしていますから、安心してください。」ということなのです。
2013年6月29日
NPO法人VPDを知って、子どもを守ろうの会
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