すべてのワクチン接種が重要です。 忘れていませんか、MRワクチン
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、海外では、2021年に4000万人の子どもが麻しんワクチンの接種を受けられなかったと報告されています。アフリカなどでは麻しんの流行が始まり、多数の死亡例が報告され、今後さらに大きな流行となる可能性が懸念されています。2000年に麻しん排除国となった米国でも、コロナ禍において麻しんの感染拡大がおこっています。
麻しん風しん(MR)ワクチンの接種率の低下は日本も例外ではありません。厚生労働省が公表した令和3年度(2021年度)の麻しん風しん予防接種の実施状況によると、第1期MRワクチン実施率の全国平均は93.5%であり、MRワクチンの2回接種を開始した2006年以降で最低です。麻しんに対する集団免疫を維持し、日本の麻しん排除状態を継続していくためには95%が必要とされており、95%を下回るのは2009年以来のことです。
今後、海外から国内に麻しんウイルスが持ち込まれた際に子どもを守るには、あらかじめワクチン接種しておくことが重要です。お子さんのMRワクチンの接種はお済みでしょうか。ほかに忘れているワクチンがないか確認しましょう。
新型コロナウイルス感染症も“ワクチンで防げる病気”―VPDです
VPDはワクチンで予防するのが原則です。米国では11歳以下の1000万人が2回以上の接種を受けており、日本でも5~11歳の小児160万人が2回以上の接種を受けています。いずれも有効性、安全性に懸念がないことが報告されています。
ワクチンの接種に迷う場合は、COVID-19に感染した時のリスクと、ワクチンを接種した時のリスクを比較することが重要です。科学的に検討されたデータからは、ワクチンの副反応よりもCOVID-19に感染したときのリスクが高いことが明らかになっています。
子どもの新型コロナウイルス感染症は、命に関わる重大な感染症
COVID-19の流行は、子どもたちをとりまく環境にさまざまな変化をもたらしました。
COVID-19の流行初期は、子どもはCOVID-19にかかりにくい、かかっても軽症であり、基礎疾患がなければワクチンは接種する必要はないという情報が広がりました。しかし、2022年になりオミクロン株の流行が始まると、感染者の増加に伴い事態は一変しました。現在、感染者の約3割が20歳未満の子どもです。子どもの感染者の多くは軽症ですが、感染者が増加し、脳炎などを合併し重症化、死亡例も増加しています。新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査(第二報)では、2022年1月1日から9月30日までの死亡62例のうち、不慮の事故など外因性死亡を除いた内因性死亡は50例と報告されています。これは、新型インフルエンザの死亡例(20歳未満で41例)を上回っています。
また、COVID-19感染後には、複数の臓器系に強い炎症を起こす小児多系統炎症性症候群(MIS-C)や、感染後長期にわたり種々の症状が持続する後遺症(Long COVID)を合併することがあります。MIS-CではCOVID-19感染2週から6週後に、発熱以外に胃腸症状(腹痛、嘔吐、下痢など)、循環器症状(心機能低下、心筋炎など)、皮膚症状(発疹など)など、複数の臓器の異常がみられ、ショック症状などを呈し集中治療を要することがあります。子どものLong COVIDはまだ十分には解明されていません。しかし、子どものLong COVIDには頭痛、倦怠感、睡眠障害、集中力の低下、筋肉痛、腹痛の頻度が高いことが報告されています。MIS-CやLong COVIDの発症は基礎疾患の有無やコロナ感染時の重症度には関係ありません。子どもの場合、日常生活や学習に支障をきたし、将来に影響を及ぼす可能性があります。
感染対策として予防接種は重要です
感染症が成立するためには3つの要件が必要です。3 つの要件は,「感染源」「感染経路」「感受性のある宿主(感染しやすい人)」です。これらの3要件のうちひとつでも完璧な対策がとれれば、感染症の拡大は防げます。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して、感染者を隔離し、外出を制限するなどの「感染源」「感染経路」に対する対策がとられてきましたが、これらの対策だけでは感染の拡大を抑えきることは不可能です。ワクチンを接種し「感受性のある宿主」を減らすことは感染症対策の大事な要件になります。
ワクチンを接種して、自分自身の健康を守る、将来の感染症に対する不安を減らす、周囲の人の健康を守ることが重要です。未接種の場合はできるだけ早く接種をしましょう。
2023年1月16日
NPO法人VPDを知って、子どもを守ろうの会
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