ゆうくん(仮名)は、3712グラムで生まれ、どっしりとした身体つきでミルクをしっかり飲む、元気な赤ちゃんでした。
産院退院後は、お母さんの実家で一歳半のお兄ちゃんと一緒に過ごしていました。
実家には、お母さんの両親と妹、そして犬が住んでおり、週末にはお父さんが会いに来て賑やかに過ごしていました。
生後3週間が過ぎて、お母さんはゆうくんがせきをしていることに気付きました。母乳もよく飲み、せき以外は体調が悪そうに見えなかったのですが、夜中に特にひどくせきをし、母乳を飲むために乳首をくわえるのも苦しそうでした。この月齢の赤ん坊はあまり風邪を引かないということを、聞いていたので、かぜではない、別の病気を心配しました。
しばらく様子を見ましたが、治る気配がなかったので、せきが出た2日後、出産した病院の小児科へ電話をしました。ゆうくんの様子を伝えると、すぐに来るように言われました。病院では、小児科の先生から「いつからせきが出始めたか」「どのようなせきだったか(せきの音)」という内容の質問をされ、検査の結果『百日せき』と診断されました。
症状は熱はなく、主にせきだけですが、コンコンというせきが10秒ほど続きます。せきをしている間は呼吸ができないので、顔を真っ赤にしてとても苦しそうです。せきが治まるとやっと呼吸ができ、息をヒューと吸い込みます。とても、特徴のあるせきです。
ゆうくんは、抗生物質(抗菌剤)やせき止めの薬を飲み始めて2週間ほどでせきは落ち着いてきました。それでもせきは、小さな体の赤ちゃんにとって大きな負担です。とても苦しそうで、かわいそうで、お母さんは心配でなりませんでした。また、せきは夜間にひどくなり、看病する親としても肉体的、精神的に辛いものでした。
あとからお母さんは、百日せきが重症化すると肺炎や低酸素性脳障害などの合併症を引き起こしたり、新生児では呼吸ができずに死亡したりする病気だと知りました。低酸素性脳障害は、何らかの理由で呼吸ができない状態が続くと血液中の酸素が不足し十分な酸素が脳に届かなくなる病気で、百日せきのひどい咳こみが原因でなることもあります。ゆうくんは入院もせずに比較的症状が軽くすみ、とても幸運でした。
産院を退院後、ゆうくんはずっと家の中にいましたので、どこで、誰からうつってしまったのか、お母さんは不思議でした。お兄ちゃんは三種混合の予防接種を生後3か月になってすぐに受けていましたし、産院で一緒だったお母さんたちからも誰かが『百日せき』にかかったという話は聞きませんでした。
ゆうくんの『百日せき』は治りました。その後、とくに大きな病気もなく来年は小学生になります。お母さんは、あのときの苦しそうな咳を思い出すたびに、予防できる病気にはかからないようにしてあげたいと考え、三種混合も含めて、受けられるワクチンはすべて打っています。
最近になって、大人の『百日せき』が流行っていて、大人から子供にもうつることもあると知りました。ゆうくんは、家族、あるいは周囲の大人からうつって『百日せき』にかかってしまったのかもしれません。
おかあさんは、予防接種は病気にかからないために重要であるとは理解していました。でもそれ以上に、まだワクチンを受けられない生まれたての赤ちゃんを守るためにも、また他人にうつさないためにも、予防接種はより重要であると痛感しました。