元気な子どもでも、ふだんは鼻やのどにいる細菌が血液の中に入ることがあり、その菌が脳を包む髄膜について炎症を起こす病気です。そして最終的には脳そのものなどに病気を起こします。
細菌性髄膜炎(昔は脳膜炎と言いました)を予防するワクチンが導入される前の日本では、年間約1,000人の子どもが細菌性髄膜炎にかかっていました。そのうち、ヒブによる髄膜炎に年間約600人、肺炎球菌による髄膜炎に約200人がかかり、2つの菌による髄膜炎で亡くなる子どもは50人近くにもなります。
また、発症が10代後半に多い髄膜炎菌による髄膜炎(髄膜炎菌感染症)もあります。
日本で細菌性髄膜炎の原因となる主な菌は、ヒブ(1種類)と肺炎球菌(90種類以上の型がある)です。これらの菌は、ふだんは鼻やのどの奥にいて、普通は症状を出しません。保育所など小さな子どもが集団生活をする場では、ヒブや肺炎球菌の検査をすると、子どもたちの鼻などから良く見つかります。これは、そばにいる子どもや家族と、咳やくしゃみなどを通じて、菌の移し合いをしているからです。その結果、元気な子どもでもこれらの菌が血液の中に入り込むことがあり、そのまた一部の子どもでは体のあちこちに菌が着いて炎症を起こします。脳を包む膜(髄膜)に入り込むと細菌性髄膜炎を引き起こします。
病気の始まりは発熱やおう吐などかぜなどと区別がつきにくく、血液検査でもあまり変化が出ません。症状が進んでくるとぐったりする、けいれん、意識がないなどが出てきますが、この時点で初めて診断がつくことが多いのです。このように早期の診断がたいへん難しいのです。
髄膜炎の原因であるヒブや肺炎球菌などの細菌は、入院して抗菌薬(抗生物質)で治療します。しかし、最善の治療をしても、薬の効果がない菌(耐性菌)が増えているために、死亡や脳障害などの後遺症が残ってしまうことも多くあります。
細菌性髄膜炎にかかると高い割合で重症化してしまいますので、一番かかりたくない、かからせたくない病気のひとつです。劇症型と呼ばれるものは、熱が出てから1日で死亡することもあります。現在の最善の治療をしても、死亡する人がヒブでは約3~5%、肺炎球菌で約7~10%います。
後遺症としては、脳が壊される脳梗塞や脳萎縮、髄液が増える水頭症など多くのことがあり、これらのことで知能や運動の障害が起こります。また耳が聞こえない難聴などになります。ヒブによる髄膜炎の場合、これらの脳の後遺症が約20%あります。肺炎球菌による髄膜炎の場合、脳の後遺症が20~30%程度あります。また、一見後遺症がないように見えたお子さんの経過を見ると、年長になってだんだん知能障害がはっきりしてくることもあります。
髄膜炎菌性髄膜炎は、ほかの細菌による髄膜炎と比べて、症状が急激に進行することが特徴です。発症後2日以内に5~10%が死亡すると言われています。いったん発症してしまったら救命するのも困難です。
細菌性髄膜炎の約8割は、ヒブと肺炎球菌が原因で起こります。どちらの菌でかかるかはわかりませんので、五種混合(DPT-IPV-Hib)ワクチン(またはヒブワクチン)と小児用肺炎球菌ワクチンで予防することが大切です。これら2つのワクチンは同時接種で受けることをおすすめします。
ヒブと肺炎球菌による髄膜炎は赤ちゃんがかかりやすいのですが、10代後半の年長児がかかりやすいのが髄膜炎菌による髄膜炎です。米国や英国、オーストラリアへの留学(特に入寮する場合)や、国内でも高校や大学の運動部などで寮生活をする場合は、感染リスクが高くなりますので、髄膜炎菌ワクチンの接種をおすすめします。
(2024年4月更新)