ワクチンを接種する大切な目的として、次の3つをあげることができます。
1.と2.はワクチン接種を受ける本人のための目的です。ワクチンが「個人防衛」と呼ばれる理由です。3.は自分のまわりの大切な人たちを守るという目的です。自分の子どもがワクチンを受けずにVPDにかかってしまい、弟や妹、おなかの赤ちゃん、お友だちなどにうつしてしまったら大変です。ワクチンの「社会防衛」と呼ばれる一面ですが、「社会」といっても、自分のまわりの大切な人たちを守るということですね。
ワクチンを接種できる人たちが、きちんとワクチンを受けることにより、地域社会でVPDの流行を防ぐことができます。VPDが流行しなければ、免疫力の弱い人たち—ワクチンを受ける年齢になっていない赤ちゃん、妊婦さん、病気のためにワクチンを受けたくても受けられない人、体力の低下した高齢者、ワクチンは受けたけれど実際には免疫が充分についていない人など—をVPDから守ることができます。
もしかしたら、ワクチンを受けたはずの自分の子どもに免疫が充分についていないことだってあるかもしれません。1人はみんなのために、みんなは1人のために。ワクチンの接種は、自分のため、そしてみんなのためだということを、忘れないでください。
また、生まれたらすぐにすべてのワクチンを受けられるわけではありません。多くの人が、受けられる年齢までその病気にかからないで済むのは、多くの“先輩”達がワクチンを受けて大流行を抑えてくれたからです。ワクチンを受ける時にこれらの人たちに感謝することも忘れないでください。
最近では、赤ちゃんや小さな子ども同伴のレジャー、ショッピング、外食などが日常的になりましたね。また働く女性が増えて、保育園などで集団生活を送る子どもも増えています。このように人の多く集まる場所に子どもが長時間いることが多くなると、それだけ感染症にかかる機会が増加します。
子どもだけではありません。2007年に全国の大学で起こった麻しん(はしか)の集団発生のように、若者のVPD流行もあります。どうしてこのような流行が起こるのでしょうか。ある程度までワクチン接種がすすむと、VPDの流行が抑えられてきます。すると、患者との接触の機会が少なくなり、結果的にワクチンでいったん獲得した免疫が弱まりやすくなるのです。また、ワクチンを接種していなくても、かからないまま成人になる人も増えてきます。このようなことから、成人でもVPDの流行が起こると考えられています。
乳幼児はもちろん成人も、みんなが適切にワクチンを接種して必要な免疫をつけておくことが、とても大切なのです。
今、抗菌薬(抗生物質)の乱用などによって、抗菌薬が効かない菌(耐性菌)の増加が問題になっています。特に、子どもの細菌性髄膜炎を引き起こすヒブや肺炎球菌では、耐性菌は深刻な問題です。抗菌薬の効果が不充分だと、治療をしても、死亡したり後遺症を残したりするからです。
ワクチンは、感染症そのものを防ぐだけではありません。抗菌薬の適正な使用を図り、耐性菌の増加を防ぐためにも、とても重要な意味を持っているのです。
(2024年4月更新)